書評    「責任という虚構」 小坂井敏晶  

 

書評     責任という虚構   小坂井敏晶  2020/1 ちくま学芸文庫

 2022年春の日本政府・メディアの均一な論調にうんざりしている人々にお薦め。

 常識を覆す、醒めた異色社会心理学者の眼。

 

 

●読む視点で全く変わるこの本の評価

僕らが“普段感じている「責任」、「主体性」、「自由」などは、実は社会から無意識のうちに誘導され、強制されているものである“と断じている。

思想・規範・正義・自由・・が重要と考え、そう標榜している向きには ”コサカ”し

いという評価になるかも知れない本。

ホロコースト・戦争や死刑制度・冤罪など集団的な残虐行為を通して、“普通の人々の行動と「責任」に関する考察”である。

 

今迄にない共感を覚える視点:

責任(又は自己責任)は宗教や近代的な主体・法意識という虚構が個人に強制するものであって、人間から遊離して自立運動する社会秩序(≒集団性≒真善美)という「外部」である 。”という。

 実生活ではあまり主張すると「へそ曲がりな考え」やアナーキーな人ととられるような主張であるが、読めば読むほど頷いてしまうので致し方ない。

 この本を読む前に、著者と一度、歓談したが、普通の日本人やフランス人と話す感覚であったので、本の先鋭さには少し驚いた。

 

 各章結論の根拠は既存哲学・思想ではなく、社会学者・脳医学等々の研究・調査・実験・観察から来ていて、但し若干ややっこしいし、適正かどうかは分からない。だが、結論は明快で新しい

「人間いう根源的に集団性・他律性」と「無根拠の世界の事件や歴史に意味が出現する不思議」を実証・解明しようとする作業。

  歴史上の事実から、多数の研究者や思想家の論・規範をそれらの観念性の誤謬ゆえに批判していく。こんな爽快なことが出来るのか?と思わせるところがある。

 

●著者の結論/まとめ

”「責任概念の危うさ」と同時に責任の根拠をを問う視点から「人間の絆の謎」に迫る“ と著者は言っている。

”責任は人間性の本質でなく、社会秩序の一つである。“

 

●僕なりの読み方:

小坂井の本をはじめて読む。一読してからその1年半前刊行の「神の亡霊」を手に取ると、著者の「虚構」、「責任」の意味が更に詳細に記述されている。

著書シリーズのテーマだが定義は難解。

著者の「虚構」とは「人類社会の無意識現象」や「集団幻想」と僕は解釈している。

著者の「責任」とは集団による「責任転嫁」「スケープゴード」の行き先。